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白いサルスベリのある家で

じりじりと夏の太陽が照りつける午後の往診はつらい。
午後は週3回往診だ。

90才の老女は慢性腎不全があり、クレアチニンが9以上ある。
その上に高度の認知症がある。
だから、腎不全が悪化しても人工透析は困難だし、しない方針にしていた。
もう、食事がほとんど入らず、いよいよその時が近づきつつある。
介護者の夫は、3才年下の87才である。細くて小さな身体であるが、頭はしっかりしている。
ふたり暮らしでいわゆる老々介護だ。

往診すると、待っていたように次々とぼやきが始まる。
『なんで、わしがこんなにしんどい目をしなあかんのや? 先生! ・・もう限界ですわ・・』
『親戚の者は、病院に長く入院させてもらってるのに・・』
『毎日、夜もおちおち寝られへん・・ヘルパーさんも来てくれるけど、下の世話はわしもせなあかんし・・』

老女は寝たきりでうつろな目できょろきょろしている。
舌はまだ濡れているし皮膚の緊張も良いが、骨と皮の状態だ。
お茶を飲ませてみたら、嚥下はまだしっかりしている。
昨日から今日にかけて口にしたものは、カルピスとスイカ数切れだけと夫は言う。

もう、1~2週間だろう。

『もう、そろそろやと思うよ。ご主人が疲れてしまって体調が悪いなら、入院頼んでみるよ。入院しても点滴もしないで看取ってもらうように頼むから。』
『でも、おだやかに自然に看取ってあげるのが一番やね。90才でよくここまでがんばってきたからね。大往生やね。』

夫は急にしゃべるのをやめてじっと聞いていた。

『ここまでおうちでがんばってきたんやから、あとで悔いの無いようによく考えてね。奥さんも幸せ者やと思うよ。もう少し頑張れたら頑張ろうかね~。みんなで応援してるからね。何かあったら夜でも来るからね。』
と言ったところで、夫はうなだれて嗚咽しはじめ、涙がこぼれ落ちた。

『・・・・わかったわ~・・・もうちょっとがんばるわ~』

そのお宅を出ると、真夏の暑い日差しがじりじりと照りつけた。

振り返ると、玄関に真っ白な花を咲かせたサルスベリの大きな木が目に入った。真っ白な花が左右に揺れていた。

 

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