昨年の秋に紹介状を持って独りの患者さんが来院された。
娘さんと一緒だった。73才。
開業医の先生に『スキラス胃癌』の診断をつけられていた。
その治療を希望されて来院。
しかし、本人には病名は知らされていなかった。
胃透視、内視鏡フィルムを見て困った。
手術をしても、抗ガン剤を使用しても、予後は変わらないと考えられた。
しかし、治療はやってみないとわからない。
手術では胃全摘になるから、術後のQOLはかなり悪くなる。
化学療法は副作用が問題で効果があったとしても根治はできない。
何もしないで、様子をみるという選択もある。
『エコーやCT、胸部レントゲンをやってみてその結果で治療を考えましょう』と話した。
しかし、苦しい選択は本人の理解や承諾がなければできないことは明白であったから、娘さんにだけ残ってもらって話した。
『ご本人にありのまま説明する必要があること。治療が大変困難となるため本人の納得が無ければ進めにくいこと。』
娘さんは患者の夫も胃癌で手術してその後しばらくして亡くなったことを話してくれた。
『自分としては手術させたくない。しかし本人に告知することに迷いがある』と。
『一応手術で外科に紹介するかどうか検査してみますから、来週までにお母さんにどう話すか考えてきてください。』と話した。
翌週、『娘さんはありのまま説明してあげてください』と言われた。
娘さん立ち会いのもと、病名とありのままの病状を説明した。
結局、『何もせず経過を見て欲しい』と望まれた。
あれからもう8ヶ月・・4月頃から食事が入らなくなって胃透視を再検してみたら、もう胃の内腔は詰まりかかっていた。
食事をすると途中で吐いてしまう。やせてきた。
そこで、本人に説明して経腸栄養を選択した。
鼻からの細いチューブを小腸まで入れてそこから栄養剤を投与する。
一日1200kcalは入る。
チューブの交換は透視下でやらなければならない。
それで今も元気でおられる。
今日は定期の訪問診療日。
『このまま、こうやって死ぬのかと思うとさみしい・・』
こんなに自分の気持ちを素直に言われるのにびっくりした。
以前までは、病気を否定するかのような発言が多かったのに・・
側で娘さんが、『何を言うの!』と明るく言われた。
『夜はやっぱり、病気のこと考えてしまうのよ・・』
幸い、痛みは無い。吐き気が少しある。
制吐剤がある程度効くからいい。
『病気のことばかり考えてはダメですよ。楽しいこと考えましょう!』
社交ダンスが趣味だが、『今はやる気がしない・・』と。
楽しいことがあるように!
毎日が平穏で満ち足りていて欲しい・・と願うばかりであった。

コメント
コメント一覧 (2件)
久しぶりに
覗いて見ました。
変わらず死に直面した
真摯なお医者様がいました。
人がその時を迎えるとき
どれだけ素直になれるか。
考えさせられました。
ikellさん、ありがとうございます。
僕にとって『日常茶飯事』がひとりひとりにとっていつもいつも『一大事』なんだと言い聞かせつつ・・
生老病死を見つめています。