いつもの往診先。
盲目の老女はいつも畳の上で褥創予防のマットを敷いて寝ている。
眼が見えないせいか、他の感覚器官は鋭敏で、声の調子で僕の体調も見透かされてしまう。
時計は、時刻を知らせる音声が出るようになっている。
背中が曲がって、結構太っていて、ちょこんと座った様子はちょうど・・・さんまのまんまそっくり。
となりには、いつも痩せた夫がいて世話をしている。
ここへ来ると話が弾む。
眼が見えない老女は、いっぱい話したがる。
先生は・・どこの出身や?
私は福井の田舎や・・などととりとめない話が続く。
そんな会話を楽しそうに夫は聞いている。
今日は大事そうなアルバムを出してきて、見せてくれた。
まだ眼が見える頃の妻の写真やら、兵隊に行ったときの軍服姿の凛々しい夫の写真。
粋な帽子にネクタイを締めたかっこいい写真・・
みんなセピアだ!
それに構図もピントもドンぴしゃに決まっている。
昔の写真・・・これは写真屋の写真だ!
こういう素敵な写真は・・今はもう撮れない気がする。
古い写真館は職人だったに違いない。
年老いた老夫婦が、カサブランカの主人公に見えた。
『お父さんはかっこいいやろ~』と老女は言った。

コメント
コメント一覧 (1件)
なんて素敵なご夫婦なんでしょう。
年老いて、身体が不自由になっても、変わらぬ愛情を育み続けていらっしゃる様子、とても心が温まります。
私も、そんなふうに歳を重ねられたら…そう思います。