痛みではなく・・

がんと言えば、痛みが一番つらいと思われがちである。麻薬が効くと思われがちである。しかし、そうではないことも多い。

彼女にとっては、痛みはそれほどでもなかった。彼女にとっての苦しみは、食べられないこと、身体がだるいこと、自分で思うように動けないこと、自分がいなくなった後の夫のこと、息子のこと、家のことなのであった。食事は、味噌汁やスープ、ジュースなどしか入らなかった。とてもとても『しんどい』のだった。

家族には、『窒息や感染症を起こしたりするとすぐにでも逝かれます。衰弱が進行しています。歳は越せないと思います』と説明した。もう、残り少ないわずかな命と思われた。
治療はできないけど、彼女の苦痛を取り除く必要があった。少しでも楽にしてあげることが大切であった。予後1ヶ月と考えられるこの時点で、ステロイドが有用と考えた。
ほとんど口が開かない。錠剤は飲めない。無用な点滴や痛い注射はすべきで無いと考えた。そこで、ステロイドのシロップを処方することにした。ステロイドは諸刃の刃である。効果も大きいが副作用も多く知られている。しかし、緩和ケアにおいては予後が1ヶ月以内となったら、長期投与の副作用は考えなくて良い。ステロイドの効果を享受できるのだ。 はっきりと効果の出る量を投与する必要がある。 口腔崩壊錠の胃薬と一緒に処方した。

数日後、プリンやゼリーが入るようになり、お粥も食べてみたくなったとまで言われるようになった。表情が明るくなった。家族は良くなったのではないか?と勘違いした。
訪問入浴も気持ち良いと笑顔が見られた。家族との話も進んでいるようで息子に『あとあとのことを話したので、もうこれで安心してあっちに逝ける』とまで言うようになった。
ステロイドで倦怠感は取れているが、予後が改善しているわけではない。このことを家族に伝えた。
急変することがあっても、いよいよとなっても慌てて救急車を呼ばないことを、家族に何度も説明した。
『 
家におれて良かった。私は幸せです。みんな来てくれるから安心です。たくさんの人が来てくれるからなかなか名前が覚えられないので申し訳ない。』と言われ、感動した。

 訪問看護師より早朝に連絡有り。血圧低下があり、徐脈となっているとの連絡が入った。看取りとなった可能性が高く、緊急で往診した。到着すると、夫、次男、看護師2名でお見送りをした後であった。
心肺停止、瞳孔散大を確認し、『ご臨終です』と告げた。
夫は、『ここで最期まで看てやれて良かった。だが、こんなに早いとは思わなかった。最期も苦しまずに逝きましたよ〜』と泣いた。次男も1階で泣いていた。

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この記事を書いた人

⼩宅 映⼠(おやけ えいじ)
趣味は、テニス、写真撮影、音楽鑑賞など

コメント

コメント一覧 (3件)

  • 家族は「こんなに早く逝くと思わなかった」と言いますね。
    そうなんでしょう。少しでも楽な時間が、本人にも周りの人にも、これから生きる力を与えてくれることが多い。
    私もたくさんの生き方に出会い、人の悲しさ、優しさに会いました。

  • 家族は「こんなに早く逝くと思わなかった」と言いますね。
    そうなんでしょう。少しでも楽な時間が、本人にも周りの人にも、これから生きる力を与えてくれることが多い。
    私もたくさんの生き方に出会い、人の悲しさ、優しさに会いました。

  • 家族は「こんなに早く逝くと思わなかった」と言いますね。
    そうなんでしょう。少しでも楽な時間が、本人にも周りの人にも、これから生きる力を与えてくれることが多い。
    私もたくさんの生き方に出会い、人の悲しさ、優しさに会いました。

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