はじめに
特別養護老人ホームが設置されたのが1963年であり、2000年に介護保険制度が実施されてはや25年が経過する。
我が国は少子高齢多死社会のまっただ中にいる。
かつて、厚労省は医療と介護の問題に対してゴールドプランを作成し推進していった。その後は新ゴールドプランとなり、2000年からはゴールドプラン21となり2004年に終了、現在は、「高齢社会対策大綱」となってより包括的で柔軟な政策へと進化している。
内容は、比較的抽象的な総論と捉えられ、健康寿命を延ばすという理念が中心となっている。
人間、いつかは亡くなる。看取りについて、国はどのように捉えていてどこに力を入れようと考えているかは明確にされていないように思える。
医療病床は削減され、在宅医療は推進され、介護施設を整備してきた中で、国は看取りをどうしていこうとしているのかを考察してみたい。
要介護高齢者の療養場所は今後どう推移していくか
統計的データを持ち合わせてはいない。これまでの臨床経験からの推測であり根拠は持たない。
しかし、おそらく当たっていると思う。データは数年前までのものが多く、今後を予測するには不十分である。
年々、自宅で在宅医療を受けられる方は減少し、施設へ入られる方が多くなっている。
理由は以下の点を感じるからである。
- サ高住や有料老人ホーム、グループホーム、特養等が随分増えたこと。
- 特別養護老人ホームの待機者が減ってきていること。
- 施設で提供できるサービスが増えたこと。
- 介護の依存度が増えていること。
- 核家族化がより進み、家族の介護力が不足してきていること。
我が国の看取りはどこに向かうのか❓
看取りという面から眺めると、病院での看取りは年々減少している。
自宅と施設での看取りが増えているが絶対数は少ない。2021年までのグラフしかないが、2021年での動きは急であり、見過ごせない傾向である。

特養にいて感じることは、平穏な看取りを望まれる方がいかに多いかということである。
しかし、現状の体制ではこれを叶えることはなかなか難しいと感じる。
長い経過で見れば看取りの文化も育ってきている。胃瘻や経管栄養を望まれる方は非常に少なくなった。
延命治療を望まれる方は著しく減ったが、施設における体制が伴っていないのが現状である。
これからは施設での看取りが大きな課題となるだろう。
特養での看取り
施設での看取りが推進されてはいるがまだまだ現実には増えていない。
特養は終の棲家と言われるが、現状では残念ながらそうとはなっていない。
特養での体制が看取りを現実的に遂行できるようにはまだ不十分だと言うことである。
スタッフの不安からくる原因もあるが、質の高いACPを行っていける体制が整備されているとは言い難い。
実際、在宅医療においては、徐々に看取りの文化の進展や厚労省の推進策で在宅看取りが増えている。
強化型在宅療養支援診療所への診療報酬制度からの手厚い誘導が功を奏したと言っても良いだろう。
しかし、特養へはそういう制度的な強化・誘導は未だに無いのである。
現実的に特養は一人常勤医体制で配置加算が取れるが、全国で常勤医師体制がとれている特養は数パーセントにすぎない。地域密着型特養ではなおさら配置加算では医師を雇用できないのである。
多くの入所者が外部受診を続け、急変したら救急車を呼ばざるを得ないのである。
明らかに純粋に老衰と言える状態で無ければ、平穏に特養で看取るということは難しいことになっている。
特養での看取りを推進するにはどうすれば良いのか?
提案をしたいと思う。
国は在宅医療を推進してきたが、看取りの推進という面で見れば居宅への訪問を主体とする方向では現実的ではなくなっている。施設への訪問を認めなければ前に進まないと思われる。
必要な課題は以下の様になるかと思う。
- 特養への訪問診療を可能とすること。
- 特養配置医との連携を推進すること。
- 同一建物への同一日訪問診療を認め、訪問診療で回診を認めること。
- 訪問診療医に施設看取り報酬を設けること。
- 特養における看護体制を24時間体制とすること。
- 特養は介護報酬制度の範囲内で、訪問診療医は医療制度で介護・医療の協力体制とすること。
看取り介護の推進と訪問診療医の連携が特養の看取りを理想的なものにできるだろう❗
特養に常勤医は不要かもしれない
訪問診療が特養に認められ、軌道に乗ると常勤医配置は不要かもしれない。
訪問診療体制があれば、24時間体制が可能であり、地域密着型の小規模特養でも看取りがやりやすくなるからである。特養には看護師がいるから訪問看護は不要だと思う。訪問診療医と看護師の連携で看取りは推進される。
特養は生活の場であるとされている。
訪問診療が何故認められなかったのかというと訪問診療料の問題や個別に訪問する自宅とは点数を同じにはできなかった事情からであろう。もちろん、施設への訪問は回診となるのは当然であろうし、診療報酬点数は施設訪問に合わせて考えなければいけないだろう。
しっかりとした看取りへの充実のため各ステージ毎に点数を決めれば良いのである。
得られる効果
上記体制整備によって以下の効果が見込まれる。
- 特養から医療機関への外部受診が抑制される。
- 特養からの救急搬送が減る。
- 特養での看取りが増え、本来の終の棲家という社会的使命が達成できる。
- 特養での看取りが看護師、訪問診療医の連携でスムーズに行われる。
- 終末期でのハードランディングが避けられ、平穏な看取りが実現できる。
- 終末期における臓器専門的医療から脱することができ、かかりつけ医(訪問診療医)によるNBMに基づいた医療・ケアへとシフトすることによって、患者・家族・医療スタッフ・介護スタッフの間の信頼関係が構築できる。
- 理想的な終末期ケアが実現できる。
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