高齢者のMulti-problemはNBMが解決する

日本内科学会2024年12月最終号は《高齢化に伴うMulti-problem症例の対応》
在宅・クリニックから病院まで・・・という特集です。

目次

特養にいて感じること


高齢者がいかに多くの問題点を抱えているか?特別養護老人ホームに勤務して本当に実感します。
個々の事例を把握するため、カルテや介護情報を眺めてそう思います。
医学的な側面では、長い病歴の中に多数の疾患、既往歴があります。その方の人生にいろんなことがあります。生育環境、仕事、家族関係、経済的なこと、その人の物語を把握するのは書類だけでは難しいことが多いです。家族と面談したり、その方と話したり、相談室や看護師からの情報を集めなければ浮かび上がりません。
長い物語の中に“病い”があり。そして、その“病い”「疾患」として医療機関で治療を受けます。その重ね合わせが今のその方なのです。

EBMとNBMについて

その人の物語を大切に!
EBM(Evidense-based medicine)とは、科学的根拠に基ずく医療のことであり、医療の基本原則です。
NBM(Narrative based medicine)とは、その人の物語に基ずく医療のことであり、その人を主体とする医療のことです。その人の物語、人生、価値観、仕事、人間関係など多様なものを重視する姿勢からなり、「全人的ケア」と言えます。「疾患」として捉えるのではなく、“病いや老い”を人生の一部として捉えることです。
EBMNBMは対立するものではありません。車の両輪です。
ACP(advased care planning)は、本人と家族と多職種がその人のNBMをすり合わせることを言うのだと考えます。
「疾患」(disease)を診るが・・・EBM“病い”(illness)を看るが・・・NBMと考えます。
緩和ケアや終末期ケアにはNBMによる捉え方が非常に重要となります。高齢者医療では、EBMだけでは大きな誤りを生む原因となる場合があり、NBMが重要な側面を持ちます。
高齢者のMulti-problemに関する情報を収集することは、NBMにとって、全人的ケアにとってとても大切な必須の作業なのです。

高齢者のMulti-problemを解決するには

終の棲家で、平穏に過ごして欲しいと願われるのが多くの家族の気持ちです。しかし、Multi-problemを有する人であり、老化故に生じる新たな問題も生じてきます。
ポリファーマシーは大きな問題です。複数の外部受診先の主治医は自分の専門分野中心となってしまいがちです。だから、特養のかかりつけ医はコーディネートしなくてはいけないのだと思っています。
解決方法は、医師だけでは無理であることが明白になってきています。高齢者のMulti-prroblem事例は多職種の連携でこそ問題解決が見えてくると言われており、経験上もそうです。そこには、疾患(disease)毎の科学的根拠に基づく医療(EBM)ではなく、病い(illunes)を有したその人の物語を尊重した取り組み、アプローチ(NBM)が求められています。
それでこそ、その方の生きてきた物語を尊重し、家族との関係を思いやり、どういうアプローチが最適なのか答えが見つけやすくなると考えます。疾患毎のガイドラインで専門医療が行われてばかりいてはいけないのだろうと思います。木を見て森を見ていないことになってしまうのです。治療すべきガイドラインが主流となり、治療を控えるガイドラインがあまりにも少ないのが現状です。
高齢者糖尿病治療ガイドライン2023はMultimorbidityが考慮されたガイドラインとなっている。)
EBMからアプローチすると薬剤は決して減りません。増えるばかりでやめることができません。やめることによって元気になる老人はたくさんいます。認知症があると、本人の訴えの有無にかかわらず投薬がされてしまいます。家族もどうして良いか分からないので主治医に従うよりしかたがなくなるのです。不眠がなくなっているのに眠剤が出され続けることがあったり、不穏症状やBPSDが出る時期がとっくに過ぎているのに抑制系の薬剤が継続され続けて誤嚥性肺炎が起きてしまうのです。100歳を超えて長生きされる方は極めて少ないのが現実です。生命予後が限られている人にいつまでポリファーマシーが続けられるのでしょうか? 医師は真剣に減薬に取り組む必要があると思います。

特養配置医はかかりつけ医としてコーディネターになる

『船頭多くして、船山に登る』と思う事がよくあります。一人の人間に多くの主治医がいて誰がかかりつけ医で誰が責任をもって診ているのかわからなくなることがあります。内科学会誌にも述べられてるように、在宅医や施設の医師は、「高齢者の主治医として、高齢者におこる多くの問題を主体的に解決していこうという意欲をもった医師」であらねばならないと思います。コーディネーターになってかかりつけ医になる必要があると思います。

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