特養常勤医と在宅医(家庭医)の違い

長く、往診や訪問診療を続けてきた。
当初は居宅(自宅)しか無かった。介護保険制度ができた頃から徐々に施設への訪問診療が増えてきた。
医師と患者さん・家族との関係は居宅と施設で異なる。居宅では独居の方や昼間独居の方を除けば誰か家族がおられる。家族、特に介護に当たるキーパーソンの方は、往診時に診察の様子を観ておられ、いつも状況を共有し説明もできる。しかし、施設では回診時に家族はいないのである。日常生活状況も、家族は詳しくは分からなくなってくるのが通常だ。

目次

在宅医(家庭医)の役割とは

在宅医療において、医師はかかりつけ医であり主治医である。在宅医のスタンスは、3本の柱と考えて取り組んできた。一つは責任制である。当たり前のことであるが主治医として、責任をもって診ていくことである。
二つ目は、継続性である。長〜いお付き合いで信頼関係を深めていくことである。三つ目は包括性である。患者さんを全人的に捉え、総合力を身につけ専門ではないから診ないということはしない。自分で診てどうしても専門医の診療が必要な時は紹介する。臓器毎に別の主治医に依存するということはしないことにしていた。

特養入所者の特徴

特養入所者の方の特徴は、高齢者であり、要介護3以上が基本でADLが低下している方であり、認知機能が低下している方が多い。勤務先の入所者でみれば、年齢は70歳〜100歳。介護度の平均は3.76であり、認知症のない方は9%にす過ぎず9割以上の方が認知症を有していた。回診をしても会話がかみ合わないことが多く、会話も同じ内容になったり以前の回診のことは忘れておられたりする。訴えが正確に言えず、曖昧になりがちとなる。本人からの正確な問診はまず無理である。主治医と患者さんとの信頼関係構築はここで難しいと感じる。その上、ご家族との信頼関係構築も難しいのである。
我が国は、核家族化し子供が親の介護をすることが困難な時代となっている。そして、少子高齢多死社会となり、老々介護、認知症介護、独居高齢者など居宅でのケアができない方が著しく増えたのである。そういう社会状況が施設介護の需要を高めている。

主治医と配置医の関係

処方のない人(つまり介護のみの人)はごくわずかで、ほとんどの入所者さんは、何らかの処方を受けている。約半数は医療機関に属する非常勤配置医にて処方され、あとの半数は外部受診で処方されている。
配置医で処方されている人の主治医は配置医と言える。しかし、外部受診されている人の主治医は受診先の医師である。紹介状のやりとりをして治療を受けている。受診には原則的に家族が同行される。しかし、普段の生活状況は家族には分からないことが多い、そこで施設での状況が分かるように「温度版」を紹介状の資料に添える。血圧、体温、脈拍、食事の摂取量、排尿回数、排便回数、尿カテーテルの入っている人は1日尿量などが一月分見られる。配置医は紹介状を書くのが役割である。特養は医療機関ではなく介護施設であるため、検査や治療はできないからである。配置医が主治医となっている方は年に一度程度の健診を受けに関連病院を受診することになっている。

特養常勤医の役割とは

従って、特養常勤医の役割は医療的に落ち着いている方の主治医として診ていくこと、そして不安定な方や専門性を要する病状の方は外部主治医との連携で紹介状を書くことということになる。
そして、老衰が訪れてきてもう服薬も困難となり積極的な治療が必要なくなると看取りに向けて看取り医として緩和ケアを行っていくことになる。
急変時は、特養内では治療が困難なので外部に主治医がいてもいなくても受診していただくことになる。紹介状を急いで書くことになる。時間外なら看護師が書いたり、紹介状もないまま救急搬送されることもある。
もちろん、風邪や膀胱炎など重大な問題ではない場合は特養内で治療はできる。
だから、在宅医とは異なる責任制、継続性、総合性が求められる。また、認知機能低下があるため、意志決定ができない方だからこそ、家族との関係は重要になる。なるべく多く会っておくこと、説明や話し合いが求められることが重要だろう。特に終末期、看取り期に入られた場合は頻回のACPを行っていく必要性を感じる。

利用者家族との信頼関係を築くには

特養施設に入所しているということは、家族と離れているということである。
病状の変化がある時には家族に説明する必要がある。外部に主治医がいない方は薬の変更や食事内容の変更などに際して看護師を通じても連絡が必要である。家族も一様ではない。身寄りの無い方は後見人がおられる。家族がいても諸事情でなかなか面会に来れない家族もいる。逆に毎週の様に来て、事細かく状況を聞かれる方もいる。看取り期になれば、ACPを繰り返し行う必要がある。何度も繰り返す必要があるだろう。訪問診療をしていた頃とは大きく状況は変わっている。
しかし、そこは未だ施設における信頼関係の構築に自分(医師)こそが重要と思い込んでいるからなのだろうと思う。入所前から、相談室は関係をもっている。ご家族の状況や思いも相談室は聞き取っている。ケアマネージャーもそうなのだ。看護師は入所してからであるが、何度も家族に会う機会がある。施設スタッフはこうやって入所者の家族と信頼関係を構築してきているのだ。それを忘れてはならないと思う。集団の力、チームの力を信じよう。そのチームの一員として頑張れば良いのだと今は気がついてきた。

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