医療・介護とICT

目次

ICTとDXの違い

ICTとは

Information & Communication Technologyの略であり、情報技術にコミュニケーションの要素を含めたものと言えます。情報技術と通信技術の両方が融合して成り立つものです。わかりやすく言えば、デジタル情報をインターネットを介してやりとりする技術です。スマートフォンやパソコンなどの通信機器がネットワークにつながって相互に通信し情報交換することを言います。ITはハードウェアやソフトウェア、インフラなどコンピュータ関連の技術を指す用語ですが、ICTはより情報伝達を重視し、その活用方法や方法論を重視します。SNS(Social Network Service)はその代表的なものです。

DXとは

DX(Digital TransformationをDXと略す)とは、デジタル技術を活用して、組織における業務プロセスを根本的に変革し、新たな価値を創出する考え方です。単に技術を導入することではなく、ITや最先端の技術を活用しながら組織構造をデジタル化することで、効率化、イノベーションの促進、利用者満足度の向上をめざします。
DX化は組織全体で変革をめざすのに対し、IT化は特定の業務プロセスの効率化に焦点を当てます。

在宅医療での経験

医療や介護における人と人とのコミュニケーションに絞って話を進めたいと思います。チーム医療、チームケアは大変重要なことであり、医師ひとりで医療はできず、看護師や介護士だけで介護はできません。もはや当たり前のことです。
在宅医療・ケアに真摯に取り組むことにおいては、多職種連携は欠かせません。患者さんを中心とするスタッフ(医師、看護師、薬剤師、ケアマネージャー、リハビリ担当者など)が患者さんに関わる情報をリアルタイムで共有できることは非常に重要なことです。これがICTによって実現できることによって、スタッフ全員のモチベーション向上につながります。自分たちの役割りに誇りと自覚がわいてきます。多職種連携によって見守られている患者さんも家族も安心できます。そこで活躍するICTツールが非公開型SNSです。
在宅医療の質は、この非公開型SNSを如何に活用するかにかかっていると言っても差し支えありません。

非公開型SNSの活用


うずまさ診療所訪問診療での経験からお話しします。最初に利用したのは、「サイボウズlive」でした。無料で利用できたことは大変嬉しいことでした。
地域医療に専念する医療機関の経営はいつも厳しいものです。経営陣を納得させるには大変骨のおれることでした。
在宅医療にこういうICTが必要といくら説明しても、現場を知らない経営陣や在宅医療の神髄がわからない経営陣にはなかなか理解してもらえませんでした。
このようなツールを利用することにおいては、法人の理解、経営に与える影響は必ず考慮しなければなりません。その点、無料で利用できるということは大変ありがたいことでした。
残る課題は、個人情報を扱うので完全非公開型SNSであり、セキュリティーがしっかりしていることでした。「サイボウズlive」はしっかりしていました。
さらに、参加するメンバー全員から守秘義務遵守を誓約書でいただくこと、患者さんやご家族から個人情報を扱うための同意書を全員からいただくことでした。これらは、それほどハードルの高いものではありませんでした。
「サイボウズlive」によって、在宅医療はすぐに中身の濃いものになり、患者さんを巡る困難なこと、厳しいこと、辛いことを共有し、チームで連携して医療・介護の対応ができました。特に癌終末期や老衰では、『たとえ、治療困難であっても、ケアはできる!』を信念に患者さんをケアしてきました。看取り期においては、きめ細やかな情報のやりとりが必須でこのSNS利用が大活躍しました。ご本人、ご家族の安心につながりました。ご逝去の悲しみを家族やスタッフで共有でき、達成感を共有できました。こういう経験を繰り返すことでそれぞれのスタッフの成長につながりました。こんな素晴らしいSNSが2019年4月に閉鎖され、有料化されるとの報で落胆しました。

MCS(京あんしんネット)について

しかし、2016年8月より京都府医師会ではMCS(Medical Care Station)を採用し推奨されていました。同じく無料で利用できる完全非公開型SNSでした。これは、多くの自治体の医師会でも採用が決まり、京都府医師会では「京あんしんネット」とネーミングされ活用を促進されていました。
MCSはスズケンの子会社であるエンブレースという株式会社が提供しています。国からの推奨があるわけではないようですが、多くの医師会が採用しています。早速、理事長にお願いしたところ採用されました。「サイボウズlive」での利用者さんを「京あんしんネット」に移行しました。「京あんしんネット」も最近機能が増え、有料化されてきましたが、無料でも使い続けることはできます。

FAXは時代遅れ

一方で、未だに連絡手段としてFAXが多用されているのが現状です。ケアマネージャーから主治医へやその逆もしかりです。介護分野においてIT化は立ち後れています。FAXは相当な時代遅れと感じます。PC(おそらく介護ソフト)からプリントアウトした紙をファックスしてこられて、そこに手書きの返事を書いて送り返す。なんという無駄な、非効率な事でしょうか?ましてやFAX番号が間違えていたら大変な情報漏洩につながります。FAXが壊れていたり紙が詰まっていたりしたら最悪です。
介護報酬制度や診療報酬制度でも報告書の作成ややりとりが点数化されていますが、デジタルを推奨する内容ではありません。厚労省は、IT化・DX化を促進する姿勢に見えますが具体的な診療報酬制度や介護報酬制度に盛り込んではいません。
例えば案として、非公開型SNSを在宅医療や介護分野に国が無料で開放し、介護・診療報酬制度において点数化し活用促進をすれば良いのです。そうすることによって効率化が進み、在宅医療や介護分野はより中身の充実したものになっていくと確信します。

京あんしんネットの現状

京あんしんネットでは、一人の患者さんを一つのグループとして作成します。そこに関わるメンバーを招待します。しかし、登録されていないために招待できない方もおられます。招待されても参加されない方もおられます。参加されてもほとんど投稿やリアクションも無い方など現実にはおられます。100%では無いのです。強制はできません。あくまで自由意思での参加なのです。登録されない理由、参加されない理由、投稿されない理由などはいろいろあると思います。
大変残念に思う事は、ケアマネージャーの参加が少ないことです。京都府医師会も推奨し進めようとしているにも関わらず、ケアマネージャー連絡会でも取り上げられ積極的に参加するような動きも見えてきません。訪問看護ステーションにしてもかなりの温度差があります。管理者に理解が得られず意義がわかってもらっていないのが現状と思われます。このため現場の訪問看護師からも参加したくてもできないなどの声を聞きます。

ICTリテラシーだけではない克服すべき課題

ICTリテラシーとは、通信・ネットワーク・セキュリティーなどのITに関する要素を理解する力、さらに情報技術を操作して活用する能力(Literacy)を指します。
パソコンやスマホは興味があって触る機会が多いほど自然に身につく。ある程度の学習は必要です。文部科学省もIT教育に力を入れています。タブレットを与えられて教育がされています。さらに、今やスマホの普及率は90%を超え、高齢者での使用も70%を超えています。慣れれば、興味があれば誰でも使えるのです。SNSもいったん覚えてしまうと使えているのが現状ではないでしょうか。そんなに高度なICTリテラシーが求められている訳ではありません。
むしろ、参加しないメンバーがいたり、採用を決意しない上司がいる原因は他にあるのではないでしょうか?
それは、意義がわかっていなかったり、面倒くさかったり、仕事の内とは考えないとか、自分の言葉を文章化する能力が乏しいとか、コミュニケーション能力が乏しいとかではないでしょうか?
前述したように、在宅医療や介護には必要不可欠なツールであると国が認識して、使用を推奨する動きがあるのですから、診療報酬で点数をつけたって良いと思います。これによってしっかりとした中身のある連携がとれたなら、FAX中心の非効率な制度は変えられます。
訪問診療では、在宅診療報酬が比較的高い設定にあったため、数多くの在宅クリニックが誕生しました。営利目的になってしまうことを憂慮します。きちんとした訪問診療、多職種連携を中身のあるものとするためには国がこの非公開型SNS活用を必須条件としていけば、在宅医療や介護は大きく前進するものなるのではないでしょうか。

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