特養における医療ニーズと配置医について

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特養における医療ニーズについて

特養における医療ニーズは、どうなっているだろうか?
入居を断らない医療内容としては、摘便、浣腸、褥瘡処置、膀胱留置カテーテル管理、ストマ管理、導尿、ネブライザー管理、インシュリン注射、酸素療法、胃瘻管理、喀痰吸引までが多い。
一方で、入居をお断りする医療内容としては、疼痛管理や点滴、経鼻胃管管理、医療用麻薬治療、透析が必要な患者、モニター測定、気管切開管理、中心静脈栄養管理、レスピレーター管理などがあげられる。
入居を断られる医療内容を要する方は、介護医療院が引き受け入れるのが妥当なのだと思う。
夜間の体制は、看護師の夜勤は無く、医師もいない。何かあれば看護師がオンコールとなっているところが約7割である。夜間の喀痰吸引は研修を受けた介護職員が行い、可能なところは約3割である。
外来受診時の付き添いは看護師が7割、残り3割は家族、相談員、介護職員が行っている。
医療ニーズへの対応方針として、多くの施設で入居者のQOL維持や看取り期の際に医療職と介護職の連携することを掲げている。
特養における医療処置の多くは看護職員が担っている。
配置医師の主な役割および期待することとしては、定期的な健康管理、紹介状の記載、急変時の駆けつけ、看取りの判断、家族や職員への説明であった。急変するようなことをできるだけ少なくするためには、日頃の状態をアセスメントし異常を早期に発見することが重要と思われる。
そもそも特養の役割を考えれば、もっと医療処置が提供できたら良いとか介護職員が研修を受けてもっと医療処置ができたら良いという問題ではない。
特養にとってむしろ重要なのは、どのような医療処置が提供可能かという論点ではなく、そもそも医療処置が必要になる状態を未然に防ぐ取り組みや医療処置が必要となった際に、本当にその方にとって必要な医療処置は何かを判断できる体制が必要である。
介護職員は入居者と関わる時間が最も長い。従って入居者の異常に早く気づく事ができる。異常に気づくためには介護職員の観察力が重要であり、そのための教育や訓練が必要である。介護職は、看護職や医師との情報共有、連携が重要である。
入居者の入院理由で多いものは、全身状態の悪化、誤嚥性肺炎、骨折であった。
穏やかに生活できるために予防が大切であり、不必要な入院を避ける努力が必要である。
感染症対応ももちろん重要なニーズである。

配置医について

特養における医師の役割

特養における医師の役割は、『入所者の健康管理』、『入所者の定期健康診断及び予防接種』、『入所者の支援』を行うことで施設との契約に基づき医学的業務を行うものと運営規程に定められている。
特養は“終の住処”なので当然看取りは重要な任務になる。
入居者の「かかりつけ医」なのであるから、責任をもって継続して総合的に関わらなければならない。

配置医とは

『配置医』という言い方があるが、非常勤、常勤を問わずに言われているものと考えられる。
医師の配置は必須であるが、“必要数”となっている。必ずしも常勤である必要はないとされている。現状を資料から推測すると、常勤医率は平成29年の統計で約1%、令和3年の統計で約2.5%程度である。全国での特養の数は令和6年現在推定10000施設であるので、特養で常勤医として勤務している医師は約300人くらいではないかと思われる。特養の平均入所定員は約60人であり、地域密着型など小規模施設も多く含まれるからだろう。地域密着型特養は関連医療機関からの配置医であり常勤医の配置は困難と思われる。
全国老人福祉施設協議会においては、医師部門は無い。

配置医の診療報酬は介護保険からで医療保険は適応されない
入所者の定期的な診察(回診)は介護保険での「基本サービス費」として評価されている。
しかし、『医療と介護の給付調整』というものによって必要に応じた処方箋の発行は可能とされている。具体的には風邪を引いたり、褥瘡の処置薬の処方をしたりは可能ということと受け止められる。認知症への処方対応やポリファーマシーへの対応も可能な筈である。特養内では治療困難な医療対応は施設外の医療機関へ紹介しなければならない。特養内で抱え込みすぎてはいけない。見極めが大事なのだろう。
特養内常勤医なら、病状をよく把握できている筈なので適切に対応していく必要があるし、できると思われる。
検査は年に一度の健康診断程度しかできないのが現実だろう。

特養に常勤医がいることの意義

特養に常勤医がいることによって、入居者は安心して暮らせる。
介護者、看護者にとっても安心であろう。
入居者にはそれぞれの物語がある。EBM ( evidence based medicine)よりもNBM ( narrative based medicine)が重要な場所である。その人の物語をよくわかって、その人らしく穏やかに最期まで生活できるように支えるのが職員の任務と考える。
かかりつけ医には、責任性・総合性・継続性が求められる。
では、どのような医師が適任だろう?
臨床で十分なプライマリーケアの経験を積んだ医師が望ましい。終末期を真摯に取り組んできた医師、しっかりとした死生観をもち、人間的なコミュケーション能力があり、協調性のある医師がふさわしい。訪問診療の経験はあった方が良い。シニア医師はふさわしい。勤務医で退職後の仕事としてふさわしい。そういう医師はたくさんおられると思う。
週に数時間の非常勤配置医には難しい課題だろう。
特養には常勤医配置が求められる。厚労省には検討していただきたい。
特養常勤医同士の横のつながりも必要だろう。
そうすることによって、真の“終の住処”になれる。入所者のQOLはより高まる。

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