特別養護老人ホーム常勤医師 業務内容

目次

はじめに

18ヶ月間、特別養護老人ホーム勤務してきた。今後も常勤医師体制が継続するように医師の業務内容を整理し、円滑な業務引き継ぎ、申し送りのために作成した。
業務内容を、利用者の健康管理、看取り、施設内業務に分けて記載した。

利用者の健康管理

介護施設における医師の重要な役割である。このためには、お顔と病歴を把握すること、医療上の問題点を抽出すること、異常の早期発見に努めることなどが重要である。
介護施設においては、EBMはもちろん大切であるがそれ以上にNBM(Narrative Based Medicine)が重視される。
医師がNBMを重視して健康管理を行うことによって、施設介護の質の向上、ご家族からの安心、信頼につながる。
介護施設における医師の立ち位置としては、医療機関における「主治医」としてではなく、「かかりつけ医」としての役割がより多く求められる。
以下、項目別に業務内容を記す。

入所者の把握

  • 病歴サマリー:各入所者毎に作成し診療記録に綴じている。原本は医務室PC内にある。今後電子化されることを期待している。
  • データベースソフトの活用(例えばNotion):入所者の柔軟な管理システムを構築できる。ステージ(安定期、不安定期、看取り期、入院中などを)を一目でわかるようにでき、個人の情報を集約でき、横断的にも縦断的にも統計的に眺めることができる。今後も何らかのデータベースソフトや電子化ソフトの活用が望まれる。お顔の写真もある。個人情報保護の元、管理する必要がある。介護チーム全体で活用できればなお有用となるだろう。今後もNotionを継続利用するのであれば活用すること。逐次メインテナンスや更新作業が必要である。
  • 新規入所者への対応:入所日までに情報収集を行う。医療情報はかかりつけ医から提供され、介護情報は居宅支援事業所ケアマネージャーから提供される。NBMを行うためには入所時にこれらの情報を収集することが必要である。情報が不足している場合には相談室や施設ケアマネージャーを介して収集する必要がある。
    入所時には、診察の後、ご家族との面談を行う。看護師が同席する。この時に病歴の確認、急変時の対応、延命処置の希望などを聴取する。入所後の外部受診の確認、処方の確認など病歴サマリー記載に必要な事項について聴取し、かつ家族との面識を得る。
  • 医療機関からの退院:退院前に相談室より情報提供がある。入院先の主治医より退院見込みの情報提供書が届くことが多い。退院の了解の有無を相談室に伝えること。退院時には、診察し、退院時処方の確認、次回受診の有無、などを確認し看護師に指示をする。入退院情報はPC内共有フォルダ内にある。

日常業務

  • 朝の申し送り:午前 9時に開催される。出席者は介護部長、看護主任、各階の担当看護師、各階ケアマネージャー、各階機能訓練士。介護主任、医師。介護部長より当日の主な予定が報告され、ついで各階の入所者に起きた前回申し送り以降の出来事、症状変化、介護上の問題点などが報告される。この時に医師は回診が必要な人を抽出しする。看護・介護スタッフからの申し送り事項は随時確認し、早期対応を心がけること。
  • 回診 :診療記録、介護記録(各ユニットにあるファイル)、熱型表、栄養科提供の食事形態表や一日の総摂取カロリー表、体重測定表などの情報をもとに診察する。必要な場合は看護師に情報提供を求める。理学所見を取り、問題点を把握し、方針を立てる。外部受診が必要であれば緊急性を判断する。指示は看護師に対して行い、看護師は家族に報告・説明し、相談室を介して受診先を当たる。
  • 紹介状 :定期外部受信には、PC中にある過去紹介状を検索し、上書きを利用すると便利。新たに記載する場合はテンプレートを活用する。紹介状には介護カルテにある「熱型表」が入所者の生活状況を伝えるために有用と思われるので基本的に紹介状に添付すること。また、初診時には、「病歴サマリー」を添付すると総合的に情報が伝わるので活用すること。受診先主治医と良好な連携を取ることに努めること。
  • 相談室との密な連携 :連携の拠点。ソーシャルワーカーとしての役割もある。受診調整、送迎に関することを担当する。前日の日報「受診状況、次回受診日程、入退所情報等」があり、毎日朝出勤時に前日分をプリントアウトして情報収集し、今後の受診日を把握すること。受診に間に合うように前もって紹介状を作成すること。
  • 看護師との密な連携 :家族への連絡は看護師が行う。看護師に情報を伝え、任せること。(医師が直接家族に連絡することはせず、あくまで看護師の役割と考えること)
    看護師の役割分担 :介護部長は、介護部門と看護部門の総司令塔。看護主任(不在時は代理)は、当日の看護責任者。紹介状や他院への緊急受診時などの指示は看護主任に行う。極力、主任を通して指示をすること。平日は各階2名(リーダーとフリー)の看護師がいる。また、他にショートステイ受け入れ担当看護師1名がいる。回診時の指示などは各階の看護師に行うこと。
  • 定期処方 :外部受診していない入所者で処方のある人には定期処方を行う。処方時には、病状変化がないかどうかを把握し、考察して行う。
    (介護施設に勤務する常勤医は医療機関に属していないため、医療機関に属している非常勤医師に処方依頼を行うことになるので、薬の変更がある場合には簡潔に要点を記載し看護師からの報告と合わせて情報提供し処方依頼することになる)
  • 臨時処方および検査 :医師の判断で、外部受診するまでもなく施設内治療が可能と判断される場合には処方する。血液検査の指示も可能であるが、これも非常勤医師を通して行うことになる。
    (医療保険の適応を受けるためである)

月毎の業務

  • 主治医意見書の記載 :月毎にケアマネージャーから依頼がある。(4~6名/月程度) 期限内に記載すること。
    記載に当たっては、意見書ソフト「意見書システム」をご利用すること。
  • 認知症判定 :毎月、2階、3階のユニットごとに見直しを行う。

その他

  • 急変時対応 :施設内スタットコールがある。特養だけではなく、施設敷地内のケアハウス、グループホームもコール発生源となる。定期訓練を行い、看護師はじめ職員がそれぞれの役割を果たす。AED、緊急時処置セットを備えてありコールがかかれば担当者が現場に持参する。
  • 心肺停止の場合 :急変時は原則救急搬送すること。しかし、明らかに心肺停止で発見された場合は、医師勤務中であれば医師が死亡確認する。検死の必要があるかどうか見極め、病死であれば家族への説明の上、死亡確認後診断書を発行する。
    医師が勤務していない時間帯は、救急隊の判断によっては警察への報告の元検死となることがある。結果によっては病死とされ、死亡診断書の記載依頼がありますので対応する。
  • 感染症流行時 :入居者・職員の健康観察を強化し、看護部門と協力して必要な措置を速やかに講じる。
  • 入所者検診 :外部定期受診していない入所者の健康管理目的に行う。何らかの疾患が疑われる場合には、医療機関への紹介受診で対応する。
  • 介護ソフトへの傷病登録 :傷病名登録の更新を行う。医師の担当は、傷病名を登録し傷病状況の内容を漏れなく記載すること。
  • ワクチン接種 :年に一度のインフルエンザワクチンと年に一度のコロナワクチン接種がある。対象は特養施設に勤務しワクチンを希望する職員および特養入所者。 ワクチン接種の可否を判定する。

看取り

特別養護老人ホームは終の棲家である。入所者さん、ご家族も平穏な看取りを希望されている方がほとんどである。
老衰や治療困難な疾患の終末期には穏やかな看取りを提供することが特別養護老人ホームの重要な使命である。
一方で、医療機関ではなく介護施設であるために、夜間では医療スタッフが不在である。このような制約があるため、看取り対象は、平穏で特別な医療行為を必要としない衰弱状態となります。
つまり、苦痛など終末期にある症状コントロールのために医療行為が必要とされる場合は、看取りが困難で、協力関連病院に入院をお願いすることになる。
ご家族が入院での看取りを希望される場合や自宅で看取りたい場合は、ご希望に沿うようにする。

《ACP》

入所時の面談時に終末期に至った場合の確認、延命治療希望の確認をすることは重要である。
「終末期となり、食べられなくなった場合にどういうことを希望されますか?」という問いかけは重要である。
また、病状変化時、衰弱が進行して経口摂取が少なくなった時などにご家族に対し、ACPを行う。
認知症が無い方は本人を交えたACPになるが、ほとんどの方が認知症を有し自身の意思表明を述べられることは困難である。したがってご家族や近しい関係者に代理意思決定を行っていただく必要がある。
ACPはチームで取り組む必要がある。また、記録を残しておくことが重要である。
(意思決定支援用紙、ACP記録用紙があるので活用する)

《看取り介護》

  1. 看取り対象の入所者が、予後1~2か月と医師が判断する場合に看取り介護導入となる。
  2. 看取り介護導入時には、看取り介護に伴う費用の説明を相談室担当者が行い、ご家族に看取り介護同意書に署名していただき、医師は看取り介護指示書 を発行する。これにて、看取り介護加算対象となる。
  3. 看取りカンファレンス :看取り介護期は、施設ケアマネージャー主催で毎週1回の看取りカンファレンスを開催する。どうすれば穏やかなお看取りができるかをケアチームで検討する。看取り介護へのアドバイスやケアチームへの精神的援助、ねぎらいを行う。また、予後を週単位、日にち単位など説明を行う。医師主導にならないように気を付ける。可能な限りご家族にも参加していただく。看護師が作成した冊子施設での看取りを希望されるご家族様へ ~やすらかな看取りのために~ を活用する。
  4. 夜間に亡くなられる場合を想定し、事前のACPの中で「朝まで待っていただけるかどうか」確認しておく。
  5. 常勤医が看取り対応困難な期間があらかじめ予測される場合には、事前に看取りの申し送りを作成し非常勤医師への依頼を行う。
  6. 死亡診断書記載について :カルテや保険証を参考に正確に記載する。死亡時刻は、直接看取った場合はその時刻、夜間など立ち会えなかった場合は、医師の推定時刻を記載する。
  7. デスカンファレンスへの参加 :亡くなられた後で、看取り介護を振り返り、良かった点や改善点などチームで総括する。より良い看取り介護への方向性をみんなで話し合う。介護スタッフの力量アップの重要な機会とする。

施設内業務

【諸会議への参加】

A 施設ミーティング :月に一度開催されます。いわば施設管理運営会議。
B 入所判定会議 :原則月に1回開催されます。入所予定者の検討、選別を行う。
C 給食委員会・事故対策委員会・感染症委員会 :月に1回最終金曜日午後に開催される。
D 終末期委員会 :不定期に行われる。
E その他 :招集があれば参加。研修会などにも積極的に参加。
ICT化への協力、意見、アドバイス等を行う。

最後に

医療機関においては、診断・治療がいかに優れているかを問われるが、介護施設においては、いかに介護が優れているかが問われる。
したがって、介護施設に勤務する医師の役割は介護へのサポートに徹すること、より良い介護が実施できるように協力することが役割である。
入所者の尊厳と安全を最優先に、スタッフと連携しながら、温かい介護・医療の提供を行う。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

⼩宅 映⼠(おやけ えいじ)
趣味は、テニス、写真撮影、音楽鑑賞など

コメント

コメントする

目次